教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

近未来教育フォーラム イベントレポート No.2(2021年3月12日)

 2021年3月12日にオンラインで開催されました、デジタルハリウッドの「近未来教育フォーラム -Raise Our Flag-」に参加させていただきました。第1部では、デジタルハリウッドのメンバーが「教育のリデザイン 5つのコンセプト」を解説してくれました。5つのリデザインコンセプトは以下の通りです。

  1. いつでも、どこでも快適に学べるようにつくる
  2. 現役・最前線で活躍する人とつくる
  3. デジタルネイティブの価値観に沿ってつくる
  4. 学習者の“自分らしさ”を中心につくる
  5. 未来をつくる人が目覚めるようにつくる

 5つのリデザインコンセプトについて、デジタルハリウッドのメンバーにしてもらったプレゼンテーションから、興味深かった部分をメモしてみました。

1.いつでも、どこでも快適に学べるようにつくる

 デジタルを活用することで、「いつでも、どこでも快適に学べる」という状況は、もっともっと広がっていくと思います。ブレンディッドラーニングの活用など、小学校・中学校・高校でも参考にできる部分は多いのではないかと思います。

  • 「教育のオンライン化をどうとらえているか」と、テーマを言い換えることができる。
  • デジハリ・オンラインスクールは、2006年にスタート。
    • ライブ配信型授業とオンデマンド型動画授業の組み合わせ。
    • 教育効果のばらつきを動画教材によって標準化ができるように。
  • 2013年~2014年には、大学の一部の授業で使ってみることに。
    • 90分の授業をいくつかに分けて、個別に動画で学習する時間と先生が対面授業をするブレンディッドラーニングを導入。
    • 全体的に底上げ効果があった。先生と学生が話し合ってフィードバックしたり。
    • 物事のインプットのスピードは人によって違う。だから、ブレンディッドラーニングは有効だった。
  • 教育効果だけでなく、ビジネス面でも、オンライン化での利点が。
    • デジタルハリウッドSTUDIOを全国に28拠点展開。どこでも学べるように。
    • 動画教材やブレンディッドラーニングの仕組みを提携先に貸してOEM的に展開している。そうした学校が全国で50ほどある。
  • オンラインスクールで培ったノウハウを、2020年春、本丸の大学で全面導入に踏み切った。
  • 教育のオンライン化を、教育事業者として、ポジティブにこの変化を捉えている。
    • 「しなければいけない」ではなく、「した方が効果的(な場合がある)」へ。
    • 取捨選択を間違えなければ、対面授業に優る場合もある。

 最後の、「しなければいけない」ではなく、「した方が効果的(な場合がある)」へ、というのは、多くの学校が考えた方がいいことだと思います。授業だけの話ではなく、コミュニケーションや情報共有などもふくめて、子どもたちの生活をデジタルが大きく変える可能性があるからこそ、考えるべきことです。

2.現役・最前線で活躍する人とつくる

 「現役・最前線で活躍する人とつくる」というのは、デジタルを実際に使って仕事をしている人たちと一緒に教育を作り、そこで学んだ人がまた「教える側」に戻ってくるということです。

  • デジタルハリウッドが、94年の創立以来大切にしてきたのは、「教員」。
  • NEXT STAGEを自分らしく生きる力として必要なのは、「クリエイティビティ」。
    • クリエイティビティはクリエイターのためだけのものではない。
    • クリエイティビティをもって生活していくこと、仕事をしていくこと、それが自分らしく生きる力になっていく。
    • そこを極めていったものは、世界を変えていくこともできる。それが現在進行形のもの。
  • 教員が、「生きた術を見せていくことが重要」。
    • この流れの速いデジタルの世界では、「現役の」クリエイターが、伝えるのがふさわしい。
      • ファッションデザイナー Olga(オルガ)さん、フリーランスエンジニアの山崎大助さんら。
    • 卒業生実務家教員は、デジタルハリウッド大学の10.6%にものぼる。
      • 卒業生が、最前線での活躍を見せながら、自身と重なる在学生に寄り添う形ができている。
      • 在学生も、卒業生に自身を重ねて、未来を思い描くことができる。だからこそ、卒業生実務家教員にこだわっている。
  • 自分らしく生きる、世界を変えていける卒業生を輩出することができている。

 小学校~高校の現場では、なかなか実現できていない部分ではあります。でも、卒業生とのネットワークなどをデジタルで構築できれば、ある程度のことはできるかもしれません。また、学校は地域の中での、コミュニティの核としての役割もあると思うので、地域との連携をしていくとのもいいかもしれない、と考えました。

3.デジタルネイティブの価値観に沿ってつくる

 学びの場の設計、カリキュラムの設計には、作る人の「価値観」が投影されます。どんな価値観をもって、学びを作るのかを考えることは非常に重要だと思います。

  • 2005年にデジタルハリウッド大学を開学。
    • 1994年から専門スクールで培った専門技術+人間的成長
      • 可能性を模索できること
        複数の領域を学べるカリキュラムにしている
      • トライ&エラーできること
        他流試合として、プロジェクト科目(外部からのお題)企業ゼミ、インターンシップ
      • 教養を培うこと
        学生のクリエイティブな活動が世の中に良い影響を与えるための判断力
      • 本物に出会えること
        実務家教員が多い。特別講義を産業界、アカデミズムの先生に依頼。
    • 留学生、LGBTQ、障がいを持った学生などが混在するダイバーシティ環境。
      • 異なる価値観やバックグラウンドを受け入れること
        多様な価値観やバックグラウンドの存在が「普通」である
        グループワーク。
        3.5人に1人は留学生。
        LGBTQカミングアウトに抵抗がない風土
      • 混ざり合うこと
        新入生研修、学内イベント
  • どんなアウトプット?
    • エンタテインメント追求型でなく、身近な課題解決型のアウトプットが増えてきた。
    • デジタルネイティブの世代は、震災やSDGsを経験してきた世代。
  • デジタルネイティブの価値観に沿ってつくるポイント
    • 中長期的視点
      スイッチは学生それぞれ。失敗も余白も許容する。
    • 多様性を認める
      extremerを排除しない。極端であることを排除しない。
    • 画一的に捉えない
      個別の状況に寄りそう
    • 混沌を受け入れる
      運営は複雑になる。それを覚悟する。腹をくくる。
  • 運営側も柔軟・しなやかであること
    • 混沌の中から新たなものが生まれることを信じること

 最後の「デジタルネイティブの価値観に沿ってつくるポイント」の4つは、僕にとって大変学び多いものでした。肝に銘じて、子どもたちを信頼してカリキュラムを作りたいな、と思いました。

4.学習者の“自分らしさ”を中心につくる

 学習者が、自分らしく学べるようにするのは、自分らしく生きることに直結していきます。「自分らしさ」を中心につくることは大切です。ただ知識を教えていくだけではなく、学び方を伝えていかなければいけません。

  • 自分らしさの実現
    • 自分のもっている能力を発揮しやすい。
    • 自分らしさの特徴が現れるのを自分で実感できる状態。
    • 楽しい、好きだけでなく、心底向き合えるものと出会っている。
  • 「誰もが、自分らしく学べる」「誰もが、自分らしく働ける」、この2つに向けてリデザイン・アップデートをしている。
  • 学び方の多様性、学びをもっと自由に。
    • 主婦、学生、シニアなど、目的の違い、環境の違いがあっても、いろんなプロパティでも学びを可能にする。
    • いろいろな目的にかなうようにアップデートしている。
  • 学習者が自分らしく学べるようにアップデート。
    • なりたい自分を想像する=実務家教員、先輩クリエイターとの交流など
    • スキルを育むだけでなく、個人の新たな社会的アイデンティを育む
    • 誰もが自分らしく働くことが、学びとセットになっている。
  • 多様な学び方(自分らしく学ぶ)+多様な働き方(自分らしく働く)=自分らしく生きる!

 自分が担当している授業でも、この「自分らしさ」を実現させられるように学びの機会を作っているだろうか、と反省させられました。「自分はこれでいいんだ!」と自信をもてるような場を作りたいな、と思いました。

5.未来をつくる人が目覚めるようにつくる

 「未来をつくる人が目覚める」ということがコンセプトに入っているのは非常におもしろいと思いました。

  • 未来をつくる人=起業家
    • デジタルハリウッドは起業家が多く生まれている学校。学発ベンチャー数、大学・大学院11位。
    • G’s ACADEMY(起業家・エンジニア養成スクール)からは、56社起業 66億2700万円調達。
  • なぜ起業家が生まれるのか?
    • アウトプットを最重視した教育設計
      • 社会へのアウトプット機会が多い。実際の社会と接触し、デビューしていく。
      • 卒業制作展、ピッチイベント、クリエイターズオーディションなど、アウトプットを最重視している。
    • セレンディピティを起こすメンターの存在
      • メンターは先生ではない。社会で活躍する個人。
      • レクチャーとワークショップは学校としてのインプットの機会。そこからアウトプットへ向かうまでに、メンタリングを行う。メンタリングがセレンディピティを生む。
      • メンターの個性が受講者にぶつかっていくセレンディピティと、受講者が自分らしさを追求していくアウトプット。
      • メンターは『個性』が最大資産。受講者はメンターを選べる。メンターが最も追求するのは、「Always Asks "Why me?”」

 「アウトプットを最重視」と「セレンディピティを起こすメンターの存在」については、小学校・中学校・高校でも、プロジェクトなどを行いながら実装されつつある、と思いました。
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まとめ

 「教育のリデザイン 5つのコンセプト」には、すごく刺激を受けました。デジタルを思考と表現のツールとして使える児童生徒を育てるために、どんなことを考えてカリキュラムを設計するか、というヒントを多く見つけることができました。自分の仕事に活かしていけるように、がんばっていきたいと思います。

(為田)