2024年9月18日に文部科学省から「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会 論点整理」の資料が公開されました。
www.mext.go.jp
公開されているPDFは全部で23ページです。PDFをダウンロードして、赤線を引きながら読み進めていきます。
「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方」を考えるのですから、以下の6つのテーマに分けて論点が整理されています。
- これからの社会像とこれまでの学習指導要領の趣旨の実現状況
- これからの社会像や現状の課題を踏まえた資質・能力
- 各教科等の目標・内容、方法、評価
- 多様な個性や特性、背景を有する子供たちを包摂する柔軟な教育課程
- 学習指導要領の趣旨の着実な実現を担保する方策や条件整備
- 学習指導要領の趣旨の実現に向けた政策形成・展開
読んでいて僕自身がおもしろいと思ったり、これは先生方と話し合ってみたい、と思ったところを紹介していきたいと思います*1。
1. これからの社会像とこれまでの学習指導要領の趣旨の実現状況
ここでは、「(3)現行学習指導要領の実施上の課題」のところで指摘されている課題として書かれていた内容を紹介します。
- 文部科学省⇒都道府県教育委員会⇒市町村教育委員会⇒学校という固定的な経路での情報伝達や、指導資料を中心とした情報発信のみでは学習指導要領の趣旨やねらいが必ずしも十分に伝わらないのではないか。(p.6)
これは本当にそうだと思います。公開されている資料などもとてもいいのですが、間にステップが多いのと、その過程で都道府県・市町村・学校それぞれの状況に合わせた形で伝えられていくうちに、当初のメッセージが伝わっていないのかもしれない、という感じはします。
- 入試が必ずしも十分に変わっていない中で、授業改善の方向性と入試の出題傾向にズレが生じ、結果として教科書の内容も授業も変わりづらいのではないか。
- 学習指導要領の趣旨やねらいが保護者や産業界などの社会的ニーズと整合している必要。乖離が大きいと、学校が取組を実施しにくくなったり、公立学校離れを招いたりするなど、意図せざる結果を招きかねないのではないかという点に留意が必要。(p.6)
授業改善の方向性と入試の出題傾向とのズレは、特に高校受験を控えている公立中学校では対応が難しいだろうな、と思います。新しいカタチの授業をしようと先生ががんばっても、保護者から「こんな感じの授業で高校受験は大丈夫でしょうか?」と言われてしまうと、ある程度対応しなければならないのは当然ですし、大きな課題だなと感じます。
保護者にも、どういう授業を目指してるのかがもっと伝えられるといいなと思います。
2. これからの社会像や現状の課題を踏まえた資質・能力
「(1)学習指導要領における資質・能力の枠組み」のなかで触れられている以下の部分はとても共感します。
- 「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の3つの柱で資質・能力を整理したことは、これからの社会像や現状の課題を踏まえても基本的には妥当。
- しかし、これらの資質・能力については、理解のブレが見られ資質・能力の育成の障害ともなっているため更なる整理・具体化が必要。(p.8)
「理解のブレが見られ」る、というのはそうかもしれないと思っています。僕もきちんと全部理解できていないと思います。僕はもっと具体的な語彙や具体例がほしいと思ってしまいますが、具体例を出し過ぎるとそれに縛られて学校現場での柔軟な対応ができなくなるだろうし、とても難しいなと思います。
学校研修に呼んでいただいたときは、このあたりは先生方に「具体的にどんな場面が見られたら、先生が思い描いた授業ができた、と評価しますか?」と質問して、書いてもらうようにしています。でも、このやり方がいいかもわからないです。ただ、先生方に書いてもらう答えが多様なものになっている、という状況を知ってもらうだけでも一歩前進だとは思っています。
もっともっと、自分自身に何ができるのか考えていきたいなと思っている部分です。
もう一箇所、「(3)学校におけるデジタル学習基盤の整備を踏まえた学びの在り方」のところに書かれていたところも刺さりました。
- デジタル学習基盤は、今後の学習者主体の学びを支える極めて重要なインフラである。このため、教師の指導のツール(教具)としての側面のみならず、学びやすさの提供や合理的配慮の基盤であることなど、学習者のためのツール(文房具)という側面にも十分な目配せをして、課題に向き合いつつ積極的な活用を推進することが重要。(p.10)
「教師の指導のツール(教具)としての側面」が強いとも思いますし、そこで満足してしまっている状況もあると思うので、先生方に「学習者のためのツール(文房具)としての側面」も見て、そこを目指しましょう、と言っていかなくては、と改めて思いました。
3. 各教科等の目標・内容、方法、評価
「(1)資質・能力の育成に向けた効果的な目標・内容の構成方法」のところで、「(教育方法の取り扱い)」として、以下のような課題が書かれていました。
- 教育方法の記述は具体のイメージを豊かにする一方で、深い納得を伴う実践とならず結果的に十分に効果が見込めない恐れがある点に留意が必要。(p.11)
いろんな学校で授業を参観させていただいて、このブログで授業レポートをたくさん掲載しているのは、ここで書かれている「具体のイメージを豊かにする」ということを目的にしているのですが、それがむしろ「深い納得を伴う実践とならず結果的に十分に効果が見込めない恐れがある」と書かれているのはちょっとショックです。でもまあ、わからないではないですけど…。
それでも、具体のイメージが貧しいよりは豊かな方がいいと信じてやり続けたいと思います。
4. 多様な個性や特性、背景を有する子供たちを包摂する柔軟な教育課程
「(1)現行の「個に応じた指導」の記述と充実の在り方」に書かれていて、大賛成!と思ったところを紹介したいです。
- 多様な個性・特性を有する全ての子供に資質・能力を育成する上で子供一人一人を見取り、適切な指導や関わりを行う教師の指導性はより積極的かつ高度なものが求められるし、時には教師が主導することが重要な場面もある。「教師は教えなくてもいい」「全て子供に委ねればよい」といった誤ったメッセージとして伝わることのないよう、最大限の注意を払うべき。(p.13)
最近、すごく問題意識をもっているところです。今後どんな議論がされるのかすごく楽しみです。上の「教育方法の記述は具体のイメージを豊かにする一方で、深い納得を伴う実践とならず結果的に十分に効果が見込めない恐れがある」とも通じるところもあると思います。
6. 学習指導要領の趣旨の実現に向けた政策形成・展開
「(1)学習指導要領・解説等の形態」のところで書かれていたことは、仕事で校内研修に行ったときに意識しておく必要があるなと思ったことでした。
- 例えば「学びに向かう力、人間性等」のように、用語が多義的に解釈され結果的に誤解を招くといった事例が見受けられる。用語の解説を設けるなど、用語間の関係や関連性など全体の構造を分かりやすくするためにはどうすればよいか検討すべき。(p.18)
これはいろんな学校で先生方と話をするときに、僕自身も考えなければいけない課題だと思いました。
まとめ
自分自身が関心があるところだけを紹介してみましたが、他にもたくさんの論点が書かれているので、ぜひ自分で「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会 論点整理」の資料を読んでみていただきたいと思います。
僕は、学校現場で先生たちと何ができるかを考えていきたいと思います。そのためのヒントがたくさん詰まっている資料だと思います。
(為田)
*1:引用部分、このブログ上で読みやすいように行頭記号を「○」を「・」に変えています。