教育ICTリサーチ ブログ

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作品制作における画集や資料集の立ち位置を目指して。光村図書:「美術デジタル教材」わくわく美術室

 5月18~20日で開催された教育ITソリューションEXPOにて、CoNETSのブースに出展されていた光村図書の中学校の美術のデジタル教材を見させていただき、とても興味深かったので、別日に取材をさせていただきました。

 美術のデジタル教科書・教材というと、現状だと図版の拡大表示、動画での説明は標準的にどこもやっていることですが、紙の教科書ではできない、デジタルならではの特徴を活かしたわかりやすい・使いやすいデジタル教科書・教材はまだまだこれからという印象でした。その中で、光村図書のものは、従来の紙の教科書に捉われない美術の授業においての使いやすさを意識されているなと感じました。

教科書ではなく、授業に合わせた目次・ページ構成

 多くのデジタル教科書は、紙面中心の構成となっていますが、光村図書の美術のデジタル教材は、教科書紙面が入っていません。活用場面や用途に合わせて使えるよう、次のように構成されています。鑑賞の際に使う「作品・作家」、制作と鑑賞の両方で使う「色・光・形・材料」、制作時に使う「技法・用具」の3つのコーナーにTOPページから分かれていました。

▼美術デジタル教材 TOPページ
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 美術は、週1回しか授業がないこともあって、多くの時間を作品制作に当てたいと考える先生方が多いです。美術の先生に教科書を使うときはどんなときかと尋ねると、ねらいの説明や、道具説明、鑑賞で使う程度であまり使わないという状況です。なので、制作の最初にポイントを紹介したり、道具の使い方を説明したり、制作途中でポイントを意識させるために説明するのに使ったりなど、授業の一部分でさっと活用できるものが理想だと思います。そういう意味では、このTOPページのように使用用途に合わせた目次は、従来の教科書ベースのものより先生方にとって使いやすいのではないかなと思いました。

 制作テーマに合わせて、さまざまな作品を一覧できる「トピック一覧」ページもシンプルにレイアウトされているので、とても使い勝手が良さそうです。

▼トピック一覧
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国宝の図版を使って、作品の構成を試行錯誤、違いを体感する

 コンテンツの中でおもしろいなと思ったのは、国宝である「風神雷神図屏風」を使ったコンテンツです。このコンテンツでは、要素の大きさや配置を自由に変えることができるのですが、配置の構成だけではなく、大きさも変えた構成を試すことができるのはデジタルならではだと思います。また、本来見ることが難しかったり、ましてや触るなんて許されない国宝である作品をいろいろいじることができるというのも、生徒たちにとっての興味喚起になるかと思います。

▼風神・雷神の配置や大きさを変えてみよう
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 とてもおもしろいコンテンツだったので、いろんな構成の違いを一画面で見比べることができるように、以下のような機能があるともっといいなと思いました。

  • 元の構成の作品と同じ画面で比較できる
  • 作った構成を保存することができ、保存した作品を一覧・比較できる
  • 生徒たちの作品を一覧・比較できる

 また、要素の配置や大きさの重要さを求められるのは、こういったアート作品よりもデザインの方が「伝えるべき情報・メッセージ」があるので、適していると思います。ポスターなどのいくつかの要素で構成されるデザイン作品を、同じようにいろいろ試行錯誤できれば、どの構成がいちばんメッセージが伝わるか、どうして伝わりやすいのか、伝わりにくい構成はどれか、目立つ構成はどれか、などをディスカッションして、構成におけるポイントを体験を通して学ぶことができるかと思います。そして、このコンテンツで体感したあとに、自分たちのポスターをデザイン制作するという流れができるかと思います。

構図による印象の違いを見比べる

 構図についても、試行錯誤を通していろんな構図を見比べて違いを学べた方がいいので、デジタルとの相性はいいと思います。コンテンツとしては、左側の図の中にある3種類の枠の構図を試すことができるもので、ボタンをタッチすると、その構図でトリミングされた絵が右側に表示されるというものでした。タッチひとつで3種類の構図が試せるのは操作的にも簡単でいいなと思いました。

▼枠で風景を切り取り、構図を考えよう デフォルト画面
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▼赤枠の構図
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▼青枠の構図
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▼黄枠の構図
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 ただ3種類に限られてしまうのはもったいないので、風神雷神の構成の試行錯誤のように、画面の枠自体を自由に拡大縮小できるといいなと思いました。制作によって、画面の縦横の比率も自由にさせる場合と、画面サイズが決まっている場合の両方があると思うので、縦横比の比率を固定・固定しないを選べるような切り替えもあると、さまざまな制作に応じた構図の説明が可能になるかと思いました。
 また、制作課題のモチーフの写真をコンテンツ内に取り込んで、構図を試行錯誤できるとおもしろいなと思いました。

まとめ

 開発担当者の方が、美術のデジタル教材について次のように仰っていました。
「美術のデジタル教材は、画集や資料集のような立ち位置になるといいと思っています。教科書という位置づけではなく、制作に入る前の数分の説明の際に使ってもらったり、制作中に生徒が説明箇所を見直したりできるようなコンテンツを開発していきたいと思っています」

 まさにその通りだなと思いました。美術の授業だけでなく、ICTはあくまで教える・学ぶ手段としてのツールにすぎないので、授業1コマまるまる使う必要はないと思います。授業に興味を持たせたり、学習目標をより的確に、より効率よくつかませたりするのに適したツールを、その都度取捨選択して授業ができるのがいいと思います。今までは教えるのが難しかったけど、デジタルにすることで教えたいと思っていた内容が教えやすくなった!というようなコンテンツが増えるといいなと思いました。
 光村図書での美術のデジタル教材の開発は今回が初めてとのことでした。今後、実践やヒアリングなどを通して、より現場の先生方のニーズや用途に応じたコンテンツを研究していくようですので、今後にも期待して、状況を追っていきたいと思います。


(前田)