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書籍ご紹介:『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』

 吉田満梨・中村龍太『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』を読みました。「エフェクチュエーション」は、世界的な経営学者 サラス・サラスバシー教授によって体系立てられた、優れた起業家の思考法だそうです。
 エフェクチュエーションの対義語は「コーゼーション(因果論 Causation)」ですが、不確実性の高まる社会では「コーゼーション(因果論)」で行動するのではなく、エフェクチュエーションで行動する方がいい、ということが書かれています。

 エフェクチュエーションの5つの原則が冒頭で紹介されていました。どの原則もネーミングが素敵だなと思います。

エフェクチュエーションの5つの原則(p.30)

  • 手中の鳥(Bird in Hand)の原則
    • 「目的主導」ではなく、既存の「手段主導」で何か新しいものを作る
  • 許容可能な損失(Affordable Loss)の原則
    • 期待利益の最大化ではなく、損失(マイナス面)が許容可能かどうかに基づいてコミットする
  • レモネード(Lemonade)の原則
    • 予期せぬ事態を避けるのではなく、むしろ偶然をテコとして活用する
  • クレイジーキルト(Crazy Quilt)の原則
    • コミットする意思を持つ全ての関与者と交渉し、パートナーシップを築く
  • 飛行機のパイロット(Pilot in the Plane)の原則
    • コントロール可能な活動に集中し、予測ではなくコントロールによって望ましい成果を帰結させる

 起業家の行動原理を分析して作られている5つの原則なので、ビジネス分野に相性がいい感じに書かれています。

エフェクチュエーションの論理は、こうした不確実な新しいチャレンジに取り組む際に直面する問題に対して、大きく見方を転換してくれるものだと考えています。たとえば、「何をすればよいかわからない」という目的が曖昧な状況があったとしても、「手中の鳥」と呼ばれる手段主導で着手する原則を活用することで、「ゴールが明確でなくとも、手持ちの手段に基づいて、まず一歩を踏み出すことはできる」と考えることができます。また、「失敗を考えて躊躇してしまう」状況に対しては、「許容可能な損失の原則」に基づくことで、「うまくいくかどうかを心配するかわりに、もし失敗して問題ないくらいにリスクを最小化して取り組めばよい」と発想することができます「思った通りに進まない」現状も、「レモネードの原則」で発想することで、「障害自体を活用することで、偶然を組み込んだ創造的なアイデアを生み出すことができないか?」と、予期せぬ事態を前向きに活用する視点を持つことができるでしょう。「自分のアイデアや能力に自信を持てない」という状況でも、「クレイジーキルトの原則」を理解することで、自分の手持ちの手段(アイデアや能力、資源など)の価値というのは自分だけでは決められないのだから、「そのアイデアが優れたものかどうかは、パートナーを獲得する行動を起こすまではわからない」と考えることができるでしょう。(p.32-33)

 こうして読んでみると、子どもたちにももってもらいたい思考法でもあるな、と感じました。
 「手中の鳥」の原則にあるように、「ゴールが明確でなくとも、手持ちの手段に基づいて、まず一歩を踏み出すことはできる」ようになってほしいと思います。正解がない問題を前に、解答欄に何も書かずに先生の解説待ちになってしまう子どもたちには、「いま自分が何をできるのか」というところから考えて、踏み出せるようになってほしいと思います。社会に出たら、正解がない問題ばかりなので。
 それから、いろんな人と協働できるようになってほしいので、「クレイジーキルトの原則」も大事だと思っています。これについては、後半でキルトとジグソーパズルの対比でよりわかりやすく説明されています。この部分、協働学習と絡めて考えるのに良いメタファーだと思いました。

エフェクチュエーションのパートナーシップが「パッチワークキルト」であるのに対して、コーゼーション的なパートナーシップは、「ジグソーパズル」にたとえられます。ジグソーパズルの場合、完成すべき絵は最初から決まっていて、パートナーシップが重視されるのは、起業家が一人だけでは全てのピースを持っていない場合に、それを持っている人にパートナーとして作品作りに参加してもらう必要があるためです。
これに対して、パッチワークキルトの制作過程はまったく異なります。まず、それぞれのキルト作家は自分の好みで集めたさまざまなパッチの入った籠と、得意な技術を持っており、それらを自らが美しく有意味だと考えるパターンに並べることで、作品をデザインしていきます。大きな作品は、一人一人が異なる布切れの籠、好み、技術を持つ別のキルト作家との共同作業によって制作されます。初めに個々の作家が作りたい作品のイメージを持っていることもあるでしょうが、実際には、誰かが偶然つなぎ合わせたパターンから新しいイメージが発想され、ともに議論をしながら作品を作っていく結果として、最初には誰も想像しなかった素晴らしいデザインがしばしば生み出されるといいます。(p.115-116)

 「コーゼーション」と「エフェクチュエーション」は対の概念ですが、どちらかを選ぶというのではなく、補完的な関係にあるということも書かれていました。

コーゼーションとエフェクチュエーションの関係については、サラスバシーが最初に発表した論文のなかでも、「コーゼーション的推論とエフェクチュエーション的推論は、常に逆方向に作用するわけではなく、むしろ両者は補完的に機能する」ことが指摘されています。より近年の研究でも、両者は異なる論理であるものの、使い分けがなされるべき補完的関係にあることがいっそう強調されるようになりました。ただし、こうした環境の変化に応じて意思決定に活用される論理が自然と変化するわけではなく、エフェクチュエーションとコーゼーションの両方を理解したうえで、意図的に切り替える能力が重要であることも指摘されています。(p.156-157)

 ビジネス書ではありますが、考え方の幅を広げることができて、子どもたちを見る目が少し変わったように僕は思いました。もしよろしければ、先生方にも読んでみていただければと思います。

(為田)