教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

書籍ご紹介:『デンマークのスマートシティ データを活用した人間中心の都市づくり』

 トヨタのWoven City構想をはじめ、「スマートシティ」のあり方に興味があり、中島健祐『デンマークのスマートシティ データを活用した人間中心の都市づくり』を読みました。

デンマークのスマートシティ: データを活用した人間中心の都市づくり

デンマークのスマートシティ: データを活用した人間中心の都市づくり

  • 作者:中島 健祐
  • 発売日: 2019/12/05
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 スマートシティのあり方について考える、具体的には「どういうふうに実際にスマートシティはすでに存在しているのか」と「これからどういう存在の仕方が考えられるのか」ということを考えるための素材として、知っているといいかもしれないと思いました。プログラミングやPBLと組み合わせることもできるのではないかと思います。いくつか、興味深かったところをメモとして公開したいと思います。

 最初に、スマートシティ全体へのアプローチについて、コペンハーゲンの例が書かれています。デンマークと日本のアプローチの違いが非常におもしろいので、その部分を引用します。

スマートシティにおけるソリューションの社会実装については、日本では大半がエネルギー管理系やMaaS(Mobility as a Service、サービスとしての移動)などの交通系の実証プロジェクトが大半だ。一方、コペンハーゲンでは対象領域はエネルギー管理だけでなく、廃棄物管理、ITS(高度道路交通システム)など、広範な領域の社会システムを対象としている。オーフスやオーデンセなど他の都市では、これらに文化教育やヘルスケア、福祉介護なども含まれ、まさしく分野横断的、包括的なアプローチとなっている。
また、スマートシティの取り組み方でも、デンマークと日本では違いがある。デンマークのスマートシティで重視されているのは、「人間中心」という思想だ。スマートシティ・プロジェクトの主な参加者を見ると、日本では地方自治体、電力会社、IT企業、ゼネコン、ハウスメーカーなどが構成員となっている。デンマークでもこれらの社会インフラを提供する企業が含まれるが、参加者はもう少し多岐にわたり、自治体やIT企業に加え、大学などの研究機関、建築家、デザイナー、文化人類学者、そして市民などもメンバーとして参画している。
あるデンマーク自治体関係者に、どうしてデザイナーや文化人類学者が参加しているのか聞いたところ、彼は「都市は、行政、企業だけでなく、芸術家、音楽家、市民などが活動する場だ。産業だけでなく、こうした多様な人たちの視点を取り入れることが、豊かな都市をつくるために必要だから」と言っていた。(p.146-147)

 テクノロジーを使ってライフスタイルをサポートしたり、ときに変えたり、ということの例として、自転車道に埋設されているグリーンウェーブ(Green Wave)の例が紹介されています。

コペンハーゲン市が2007年ノアブロ路線に導入後、他の路線に拡大されているグリーンウェーブ。当初は、自転車道に埋設されたLEDに同期して、時速20kmの速度で走行する限り、朝と夕方の通勤時間帯に赤信号で止まることがないという路線であったが、高性能な信号機の導入により、LEDは現在撤去されている。つまり、グリーンウェーブでは時速20kmを維持している限り、交差点はずっと青信号なので止まることなく走行できるというしくみだ。
なぜ、20kmなのか。実は、サイクリストの心理面まで考慮して設計されている。コペンハーゲンのサイクリストの平均走行速度は時速16kmで、20kmだと少し頑張ってスピードを出さないといけない。そのことで自転車交通の流れがよくなり未然に渋滞を防ぐことができる。
一方、なかには20km以上のスピードに慣れているサイクリストもいるだろう。朝夕の通勤ラッシュ時にスピードの出ている自転車が交通の流れに加わると危険である。しかし、高速で走行しても、赤信号に引っかかるため、到着まで時間がかかる。そこで、高速で走行していたサイクリストも20kmに速度を落として走行した方が、到着時間が短縮されることがわかると、20kmの交通の流れに同調するようになる。そして自転車交通の流れが調和することで、子供を乗せている母親も高齢者も安心して自転車道を利用することができる。(p.82-84)

 時速20kmでみんなが走るように、テクノロジーを使ってそちらにインセンティブを作って導いている、そうした実例があるというのがわかります。YouTubeで見たほうが、どんな感じかが想像しやすいかもしれません。
www.youtube.com

 それから、キャッシュレスについての話も。デンマークではないのですが、3年くらい前にスウェーデンから来たお仕事のゲストたちが、マクドナルドでキャッシュを持っていなくて困っているシーンに立ち会ったことがありました。それくらいキャッシュレス社会へ進んでいっている、ということなのだな、と思います。

デンマークではアメリカのアップルペイ(Apple Pay)はあまり浸透していない。それは北欧では独自のモバイルペイ(Mobilepay)が大きなシェアを有しているからだ。そして今や若者だけでなく高齢者もモバイルペイを利用していて、日常生活ではほとんど現金を使わない生活スタイルになっている。
知りあいのデンマーク人が子供にお小遣いを渡そうとしたら、紙幣での受け取りを拒否されて、モバイルペイで送って欲しいと言われて困惑したと話していた。さらに、小学生の子供がいる親から聞いた話によると、デンマーククローネ紙幣すら知らない子供が増えていて、紙幣や硬貨というものについて教えなければならない時代になったそうだ。(p.175-176)

 社会科の授業で、こうしたことを教えなければいけない時代がやってくるでしょうか…。

 最後に、デンマークでロボット産業の推進が進んでいるということについても書かれていました。2019年のEdvation x Summitで出会ったLOVOTが大好きなのですが、デンマークで実証も行っているそうです。

オーデンセでロボット産業を推進しているのが、2012年に設立されたロボット産業のクラスター「オーデンセ・ロボティクス(Odense Robotics)」だ。
実は、オーデンセ・ロボティクスと日本との関係は深く、2009年からすでに20社以上の日本のロボット企業がデンマーク外務省投資局の視察支援でデンマークを訪問し、これまでに11社が実証を行っている。最近ではロボット・ベンチャーであるオリィ研究所の分身ロボット「Orihime(オリヒメ)」が学校や福祉施設で移動の制約を克服するためのコミュニケーションロボットとして、またGROOVE X社は人の愛する力を育むロボット「LOVOT」で、世界一幸福なデンマーク人をさらに幸せにするための実証を行っている。その主なロケーションがオーデンセである。(p.204)

www.odenserobotics.dk

blog.ict-in-education.jp

 国として、「新しい社会へ向かっていっている」という感じを知ることができてよかったです。スマートシティについての知識を得ることができたし、社会の動かし方ということについても学びがありました。

(為田)