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ひとり読書会:『UDL 学びのユニバーサルデザイン クラス全員の学びを変える授業アプローチ』 No.2 「第3章 読みの方略指導、UDL、デジタルテクスト:統合的アプローチの例」「第4章 書きの指導をUDLで変える」

 トレイシー・E・ホール、アン・マイヤー、デイビッド・H・ローズ 編『UDL 学びのユニバーサルデザイン クラス全員の学びを変える授業アプローチ』を読みました。ずっとお世話になっている校長先生からお薦めいただいて読んだのですが、デジタルを活用して子どもたちの学びを変えるヒントが多く書かれていました。

 今回は、「第3章 読みの方略指導、UDL、デジタルテクスト:統合的アプローチの例」と「第4章 書きの指導をUDLで変える」の読書メモを公開します。
 僕は、子どもたちの読み書き能力が高くなる学習に関心があります。情報が溢れている現代で、情報を受け取るために「読む能力」、情報を発信して人と協働するために「書く能力」が必要だと思っているからです。読み書き能力とUDLがどのように関連していくのかと思いながら読み進めました。

第3章 読みの方略指導、UDL、デジタルテクスト:統合的アプローチの例

 第3章の最初に、「読む能力」の複雑さと、つまずく子どもの多さが書かれていました。

意味を読み取るというのは、教わらなければできない複雑なプロセスである。一度マスターしてしまえば、それらのスキルは生涯にわたって学習の機会を切り開く。しかし、どの学年でも、またどの教科でも読みでつまずいている子どもがいる。(p.49)

 「意味を読み取る」は、最初に思い浮かべるのは印刷物(書籍など)を読んで中身を理解することですが、印刷物では不可能な方法で読みにつまずいている生徒を支援する「足場的支援つきのデジタル読書環境(SDR)」について言及されていました。「SDR」は、「Scaffolding Digital Reading」の略ですかね…(脚注を見てもわからず…)

この10年の間、我々は読みでつまずいている生徒に方略的な読解力をつけるためのデジタル読書環境を作り出す方法を模索してきた。質の高い作品、小説、民話、説明文、絵本などを用いた、「足場的支援つきのデジタル読書環境(SDR)」は学習サポートを内蔵しており、可変性のない印刷物では不可能な方法で生徒たちがテクストに直接かかわることを可能にした。(p.49)

 ここで言及されている「足場的支援つきのデジタル読書環境(SDR)」は、2007年とか2008年とかに書かれた文章が参照されているようです。その時点からすれば、いまはテキストだけでなく動画コンテンツ(YouTubeとかTikTokとか)や音声コンテンツ(AmazonオーディブルとかPodcastとか)もあります。それでも、「読みは基本である」ということは変わらない、と書かれています。

新しい技術が進化していくにつれて、我々の読み書きの定義も変わってきた。今日、「読み書き」は10年前とですらかなり異なるものとなっている。しかし、昔から言われている「読みは基本である」ということが、今でも妥当で真実であることに異論を唱える人はほとんどいないだろう。(p.63-64)

 読みが苦手であるから、読みを基本にしたさまざまな学びを上に積み上げることができない、という子どもたちは多いように思います。読み以外の形でサポートをしてあげることができれば、学び方の選択肢ができると覆います。

テクノロジーが教師に取って代わることはないが、テクノロジーは集中を助けたり、努力をより効果的に使ったりするのを助ける。そして何よりも大切なのは、困難のある子どもにも足元を整備し、読みでも学習でも成功を収められる新たな機会を提供しているのだ。(p.65)

第4章 書きの指導をUDLで変える

 第4章の最初には、「書くこと」が学力の要になる、ということが書かれていました。

書くということは、国語の基本的なスキルでありカリキュラムを通じて学力の要となる。中学校以上ではたいていの教科で理解したことや進捗状態を表すのに、書くことを通じて行うよう求められる。生徒たちは読んだことを統合し、新しい考えを作り出し、概念や考えを書いて表現する力をつけなければならない。(p.68)

 特に、今日のデジタル社会で、いっそう「書く能力」が必要になると書かれています。ここまではっきり書かれているのはいいな、と思います。「書く能力」は考えをまとめる力でもあり、考えを伝える力でもあります。

上手に書けるということの必要性は高校卒業とともに終わるものではない。私たちの文化の中で、書くということは大変尊重されている。(略)今日のデジタル社会では、コミュニケーション、協働、創造的表現、生涯学習に幅広いツールを使っている。そのほとんどすべてにおいて効果的な書きのスキルが必要になる。Eメール、ディスカッション・フォーラム、ブログ、GoogleドキュメントやWikiのような協働書き込みのアプリなどはその代表的なものだ。これらのツールは、考えを文字言語に変換できる人には便利なものである。学校にいる間に効果的な書きのスキルを身につけられた児童生徒は、文字言語でうまく表現できない者と比べ、社会に出た時に著しく優位に立つことになる。(p.68-69)

 「書く能力」は大事だが、習熟するのはなぜ難しいのか、ということが続けて書かれています。

書くことは困難な作業であり、習熟するのもまた難しい。なぜだろうか?それは書くことは我々の能の働きとは一見合致しないものだからである。我々の脳はマルチモダル[多感覚・多様式を使って情報処理を行う]である。我々は考えを視覚化する。思考は頭の中に浮かんだり消えたりするが、規則性を持っていることは少ない。
書くということは、そのような自由に湧き出る思考の動的なプロセスを、論理的でまとまりがあり明確な文章やパラグラフにして、1つの規則性を持って出力しようとするものである。(p.69)

 「書くこと」をUDLガイドラインと組み合わせたて考え、作文の指導と学習とを改善していく例が書かれていました。

UDLガイドラインは、教育者たちが高い期待度を設定するのを助ける。それだけでなく、子どもたちが質の高い作文をし、自分なりの文体を形成し、書くことを生涯を通じて必要なスキルとして使っていけるためにはさまざまな道筋があっていいという柔軟性も持ち合わせている。(略)

  1. はっきりとした書きのゴールを設定する。しかしゴールは達成する手段までは限定するものではない。
  2. 適度なチャレンジと、ゴールを達成するための柔軟な手段を提供する。
  3. 学習者が取り組み、やる気を維持するために、作文のトピック、創作用のツール、作文の形態に選択肢を与える(選択肢が学習ゴールを損なったり、対立したりしない範囲内で)。

(p.72)

 中学校で広く使われて効果を上げている2つの書きの指導モデルも紹介されていたので、まとめてみました。

中学校で広く使われ効果を上げている2つの書きの指導モデル(p.74)

  • プロセス・ライティング
    • 書きのプロセスを、(1)明確化、(2)下書き、(3)作文、(4)発表という具体的なステップに分けている。
    • 子どもたちは書きながら各ステップを方略的に応用することを学ぶ。
  • ライターズ・ワークショップ
    • 頻繁に手を止め分析し、生徒同士で互いの作品にフィードバックをし合う学習コミュニティの中に書きのプロセスを組み込む。
    • 書くことを社会性のある活動として捉え、その活動の中で、書き手としての熟達に学習コミュニティが重要な役割を果たしている。

 また、書くことに関しての足場的支援も紹介されていました。

書くことに関しての困難や怖れを減らすための足場的支援(書き出しヘルパー、チェックリスト、手本)を提供している。足場的支援はジャンル別になっているため、子どもたちがどんなトピックを選んでも関連性のある支援となっている。(p.75)

 ここで書かれている、「書き出しヘルパー」や「手本」は授業支援ツールでテンプレートを提示したり、お互いの作品を見合う時間を作ったりすることで支援できるなと思いました。チェックリストを作って、資料箱などに入れて共有することもできそうです。
 「書くことに関しての困難や怖れを減らす」というゴールが明確になっていることが大事だなと思います。ただICTを使うのではなく、ゴールを達成するためにICTを使う、というふうになっていかなければ、と思いました。

 この後、ある中学校でスティーブンス先生が生徒たちと一緒に始めた、オンライン・フォーラムを使った「読んだ本に関してのディスカッション」が紹介されていました。ここで書かれていること、学校でのオンラインでのディスカッションや情報共有、チャットの活用などのヒントがたくさんあるように思いました。

意見のわざをマスターするには、フィードバックを得て練習する機会やさまざまなトピックや文脈での練習がもっと必要になる。だからこそスティーブンス先生は、生徒たちが自分の作品について話し合ったり仲間同士でフィードバックし合える、このオンライン・フォーラムを始めることにした。
このフォーラムでは、いくつもの意見を含む長い書き込みは控えるように促される。そういったものは返答がしづらく、ディスカッションを深めるというより抑えてしまいがちだからである。(p.82-83)

 長い書き込みはディスカッションを深めない、というのはなるほど、と思ったりします。僕は逆に、答えが短文ですむような問いもあまり出さないほうがいいだろうな、とも思っています。このあたり、学年とか教科とか、そもそも問いにもよって違うと思いますが、いろんなケースで見ていきたいなと思っています。

スティーブンス先生のクラスの成果は目覚ましいものであった。以前はレポート課題など書かなかった生徒がすぐにフォーラムの活発な参加者となった。生徒はそれぞれのトピックに関してコメントを書き込むことで、互いに書くことを促し合うようになった。このようなオンライン・フォーラムだけでなく、教室では定期的にディスカッションの機会を持ち、フォーラムのトピックとして適切であるために必要なこと、オンライン・ディスカッションを活発にするオープンエンドな質問の作り方などについて見直しをする。スティーブンス先生はすべての書き込みを読み、必要な生徒には、自分の仲の良い子だけではなくほかのクラスメートにも返答するように促す。先生は、生徒たちにディスカッション・フォーラムは自分たちのスペースであると感じて欲しいと思っており、オンラインでいるときは自分自身と互いに対して責任を持ってほしいと考えている。(p.83)

 その後、さらに高校での事例も紹介されていました。書きの指導は国語の授業でのみ行われるべきではなく、教科を越えてされるべき、と書かれています。これ、大賛成ですけど、中学校・高校ではなかなか難しいのが現状だなあ、と思っています。

書きの指導は国語の授業でのみ行うものと考える人は多い。実際のところ、教科を越えて行うことができ、また行われるべきでもある。それが取り組みと意味ある文脈の中で練習することの機会を増やす。(p.88)

 章の終盤には、「書く指導」について先生方にお伝えしたいな、と思うことと、自分の授業でやってみたいな、と思うことがたくさん書かれていました。

作文指導においては、学習ゴールとは初心者が熟達した書き手となることである。書くプロセスを習得することは質の高い作文を書くのに重要である。(p.91)

子どもたちはいろいろな状況の中で、考えたり、学んだり、参加したりするために書くことになるだろう。(略)現行の書きのカリキュラム、指導実践、教師養成においては、学習者、効果的な書きの指導、ウェブベースのテクノロジーについてすでに明らかになっていることを活用するべきである。
情報にアクセスし理解する方法や、持っている知識やスキルを表す方法や、取り組んで書く意欲をわかす方法は学習者によって異なる。(p.94)

p.94
「書くスキルは簡単に他の形や教科にも転移できるものではない。(略)生徒たちは、書いて考える方法について各教科において直接的な指導を受け、各領域において書く練習をし、その領域に適した文章の手本を真似る機会を持つ必要がある。柔軟な手段と支援を提供せずに高い期待度だけを課すのでは、生徒に書くことへの不安感と恐怖を煽るだけになってしまう。」

 「柔軟な手段と支援を提供せずに高い期待度だけを課すのでは、生徒に書くことへの不安感と恐怖を煽るだけになってしまう」というところ、すごく刺さりますね。僕は、書くことだけでなく表現することの楽しさと難しさを子どもたちに知ってもらいたいと思っていて、そのためには書くことへの不安感と恐怖を減らしてあげないといけないな、と思いました。
 こういう授業をされている先生方もたくさん知っています。自分も頑張らなくては、と思いました。

まとめ(というか、感想)

 子どもたちが読み書き能力を身につけて、使いこなせるようになるために、どんな学習活動を設計できるのか、どんな学習環境(デジタルもアナログも含めて)を設計できるのか、UDLガイドラインを見ながらいろいろと考えられそうだな、と思っています。

 No.3に続きます。
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(為田)